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それは初日舞台挨拶登壇前の、前室での出来事。
私と反町さんが雑談をしているところに
アシスタントプロデューサーがやってきて、
ブログ用に私と反町さんの2ショットを撮りたいというので、
一緒に横に並ぶ事になった。
その時に私が反町さんに言った、
いま思えば余計でしかないあの一言。
11/20の完成披露試写会の時、
私の立ち位置が常に反町さんの隣だった事が、
身長から格好良さからダンディーさから、
もう上から下まで男としての絶望的な格差が際立つ結果となり、
試写会の終了後、家族や親しい友人にたびたびネタにされ、
かなりおいしい しょっぱいを思いをしていた。
その笑い話を伝えたくて、
「いやー反町さんの隣に立つのキツいんですよ、
『種』としての違いを痛いほど思い知らされるので(笑)」
と、むしろ反町さんを褒めるつもりで、
もしそう聞こえなくても100%冗談に聞こえるように、
言っていたのである。
私は舞台上でその事を思い出していた。
いま、反町さんがバミリより数歩後退した場所に立っているのは、
もしや客席から見た時の私との身長差を
遠近法で少しでも目立たなくさせるためではあるまいか。
とすると、いま、反町さんがその位置で
ダラッとした休めの姿勢をとり続けているのも・・・。
推して知るべしか。
考えすぎ。
単なる思い過ごし。
そう言いたくなる気持はわかる。
だが、私は断言してもいい。
これは反町さんによる一流の気遣いだったと。
撮影現場での反町さんの様子から何から
これまでに得てきたあらゆる情報から推測して、
反町さんならば十分考えられる事だった。
『反町隆史』とは、そういう男なのだ。
その事に気が付いた時、私は感動に打ち震え、
正直言って舞台挨拶どころではなくなっていた。
その震えが舞台挨拶の緊張から来るものなのかさえ
わからなくなっていた。
初日舞台挨拶は、初回の上映終了後と、
2回目の上映前の計2回行われ、
その2回目の舞台挨拶でも、
反町さんはやはり同じ姿勢を
とっていたことを付け加えておこう。
役者にとって「自分がどう見えるか」はとても重要な問題だ。
ほぼすべてと言ってもいい。
ところが反町さんは「自分がどう見えるか」を差し置いて、
監督である私を立てようとした。
その謙虚さと紳士的な姿勢に私は舌を巻き、
巻き過ぎてパスタのように絡まり、
結局自分の挨拶は噛み倒すという
醜態をさらす事になったのだが。
本人に真相を尋ねようかとも考えたが、
仮に尋ねたところで、「そんなバカな」と
笑いながら否定された事だろう。
それに、これほどの粋な計らいに対して、
それはあまりに不粋というもの。
だから私は敢えて何も言わなかった。
でもそれももう、時効でいいだろう。
私は種としての格差はおろか、その度量に於いても
反町さんに遠く及ばないことを思い知ったのである。
その心遣いに気がつける繊細さが、
自分に僅かでも備わっていた事だけが、
せめてもの救いと思う事にする。
そんな反町さんを、私は心からの尊敬を込めて
「兄貴」と呼ばせて頂きたい。
本人が嫌がってもだ。
軽い打ち上げのあと、私の手を力強く握ってから
颯爽と去って行く反町さんの後ろ姿に、
私が心の中で敬礼し続けたのは、
ここだけの話にしておいてもらいたい。
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