私には、人生の節目に読み返していきたい本がある。
『宇宙においでよ』 著・野口聡一、林公代
宇宙飛行士、野口聡一さんによる宇宙の本。
明らかに子供向けの内容なのだが、
宇宙に関する知識が子供並みの私にはちょうどいい。
何冊か買って色んな人にあげてしまったので、今は手元にない。
だからこれからする話は、私の余りに頼りない記憶を頼りにしていて、
この本の厳密な引用ではないということを予めご留意願いたい。
この本の中で私が好きな話が二つある。
一つは、「なぜ宇宙を目指すのか」という話。
言うまでもなく、宇宙開発は人命への高いリスクと、
とてつもないお金がかかる。
前者は、そもそも宇宙飛行士たちはそのリスクをよく理解した上で
集まった有志なので、まぁ百歩譲ってよしとするにしても、
そのためにかかる膨大なお金は、好むと好まざるとに関わらず、
国民である我々の税金から捻出されている。
『ただでさえ地球上にも問題が山積みなのに
宇宙開発などにお金をかけていいのか』
という当然の議論が持ち上がる事になる。
決して逆風も穏やかじゃない中、
それでもなお、なぜ宇宙を目指すのかと。
この本の中で、野口さんはこう答える。
アリの気持ちになって考えてみましょうと。
アリとは蟻のことである。
一本の直線上を、前後に動くことしか出来ないアリを想像してみる。
これを便宜上、『一次元のアリ』と名付ける。
一次元のアリたちが列を為して直線上を歩いていると、
その行く手には石が置いてある。
一次元のアリは直線上を前後に動くことしか知らないので、
その石よりも先にどうしても進めない。
ところが、その中で冒険心を持った一匹のアリが、
線の上を思い切ってはみ出し、その石を迂回することを思いつく。
それを見た後続のアリたちは、
「その手があったか」と、そのアリについて行く。
そうして、一次元のアリは左右に動く事も覚えて
「二次元のアリ」となり、石よりも先に進めるようになる。
そんな二次元のアリたちの行く手に、またまた障害が。
今度は左右に無限に伸びた壁である。
二次元のアリたちは、前後左右に動く事しか知らないので、
その壁よりも先にどうしても進むことができない。
ところが、その中のチャレンジャーな一匹が、
壁を登ることを思いつく。
それを見た後続のアリたちは、
「その手があったか」と、そのアリについて行き、
二次元のアリは、前後左右に加えて上下に動く事も覚えた
「三次元のアリ」となり、壁よりも先に進めるようになる。
そんな三次元のアリたちの行く手に、
まったく誰が置いたんだか、またまたまた障害が。
今度は上下にも左右にも無限に伸びた壁である。
三次元のアリたちは、前後左右上下に動く事しか知らないので、
その壁よりも先にどうしても進むことができないでいる。
私たちは三次元のアリだと、野口さんは言う。
いま地球上では、解決できず頭打ちになっている
複雑な問題が数限りなくある。
三次元での問題は、三次元の枠の中に留まっている限り、
答えが見えてこない。
例え危険とわかっていても、勇気を持った一匹のアリが
常識を抜け出し、新たな道を見つけない限りは。
「一次元のアリ」や「二次元のアリ」には解決できなかった問題は、
三次元の私たちから見ると実に容易く解決できる問題だ。
私たち三次元の問題も、宇宙という別の観点に立ってみるだけで、
実は簡単に解決できるのではないだろうか。
だから、宇宙に行くのだ。
地球上に問題が山積みだからこそ。
この話を読んで、私の膝小僧が赤く腫れ上がったのは言うまでもない。
この本の中で私が好きな話、
二つ目は、「心に宇宙という視点を持とう」という話。
野口さんは、宇宙から見た地球は本当に美しいと言う。
この、たった一つしかない地球が、
人間の勝手の思惑によって
「国境」などと言う見えもしない線で分断され、
そのために争ったりしているなんて、
なんてバカバカしいんだろうと思えるくらいだと。
国を預かる責任者の人たちはみんな、一度でいいから
宇宙から地球を眺めてみればいい。
そうすれば、我々がいかに愚かなのか自覚できて、
無用な争いなど無くなるのではないか。
それほどに宇宙は偉大で、地球は尊く、
人間はちっぽけな生き物らしい。
だから野口さんは読者である子供たちに語りかける。
君たちにも、心に『宇宙』という視点を持って欲しいと。
何か困ったことがあった時、落ち込むことがあった時は、
宇宙という視点からその出来事を見てみる。
そうすれば、それがまるで取るに足らない小さな事のように
思えてくるはずだと。
宇宙に行ったことのある人だからこそ言える言葉だ。
私が言っても「殿はご乱心召されたか!?」としかならないだろう。
私はこれを、人生の応援歌だととらえた。
子供向けの話が、齢29を数えるいい大人に響いてしまった。
この話を読んで、私の目頭が熱くなったことは
ここだけの話にしてもらいたい。
(しかも電車の中で。眠くもないのにアクビとかしてなんとか周囲の目を欺きました)
そんな野口聡一さんが先日、163日という長期に渡る
国際宇宙ステーションでの滞在を終えて、地球に還ってきた。
今は地球での重力に慣れるために、アメリカでリハビリ中だ。
我々が一日でも早く四次元のアリになれるように、
これからも是非頑張って頂きたい。
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